りょうこの誘惑(1)

子供のころから科学がわりと好きで、ブルーバックスなんかの科学解説本をたまに読んでいました。でもブルーバックスは難しいし、他のもっと易しい本でもやはり全部は理解できません。

それでも、なにか自分が調子の良い時には、こういう好奇心をくすぐる本を読んで来たように思います。その中で、世界の不思議さと、それを考えている人たちの凄さを感じたことがいくつもあります。相対性理論もそうだし、シュレディンガーの猫の話なんかもそうです。もちろん、どちらもちゃんと理解はできませんけどね。

その中で、これまでいちばん衝撃を受けたのは、京都大学の町田茂名誉教授が書いた「量子力学の反乱」(学習研究社)という本。たぶんもう25年ぐらい前に読んだんですが、最後の方に衝撃的なことが書いてありました。

「〜測定の仕方によっては、粒子の広がりは無限小の1点から無限大、すなわちこの宇宙全体にまで広がり得るのである!」

あまりに衝撃的で、「え?そんなこと聞いてないよ」という、なんとも素朴な感想しか出てきませんでした。

この話と直接関係があるのかどうかわかりませんが、「量子もつれ」という現象があるそうです。町田先生の本にはこの言葉は出てきませんでしたが、たぶん関係あるんだと思います。

ネットで「量子もつれ」と検索すればたくさん解説が出てきますが、とてもじゃないが、普通の感覚では理解できない現象が現にあるそうです。この現象を利用するのが、最近話題になる量子コンピューターだとのこと。

量子コンピューターについても、本を買って読んだり、ネットで検索したり、Youtubeの解説動画を見たりしましたが、謎は深まるばかりで、とてもじゃないが私の頭では追いつけない世界が広がってました。

でも、それをとてもいい加減に解釈して、テキトーに書いたのが「りょうこの誘惑」という話。

極端にくだらなくて(もちろん、良い意味でのくだらなさだと自分では信じている)、しかもお下劣(これも死語か…)な話だけど、自分ではとても気に入っています。

量子力学という学問はとんでもない世界に行っているようです。でも、世界は単純でなくて、複雑でいつまでも謎が残っている方がいいような気がします。それだと、いろんな可能性がまだ考えられるということですからね。


量子力学の反乱

 

マレーシアとの接点があった妖怪の小説

小説を書いた話をしましたが、この小説の件とマレーシアとは全く接点がないと思っていたら、一つだけありました。

「妖怪タケカンパケタ」というタイトルの短編なんですが、たぶんこれを見て最初に思うのは「何だその名前は?」ということでしょう。自分でもこんな名前を口にしたのは、半世紀以上生きていて間違い無くこれが初めてのことでした。

何でこんな名前を考えついたのかというと、考えたのではなく夢で見たんです。もう一年ぐらい前の夜に見た不思議な夢はこんな感じでした。

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私はなぜだか、大きな男の赤ちゃんを抱えて巨大なショッピングモールの中を早足で歩き回っていました。出口を探していたのか、どこかに繋がる通路を探していたのかは定かではありませんが、結構あせって行ったり来たりを繰り返しています。

走りたいのに、足が重くてなかなか動かなくてもがきながら、方向音痴の私はどうしても目的の場所を見つけられず、とうとう屋上のような場所に出て来てしまいました。

そこでウロウロしていると、壁というか何か土手のような背景の前に、茶色っぽいクマのぬいぐるみのようなものが立っています。

その前を通りかかった時に、抱えていた赤ちゃんが言いました。

「あ、タケカンパケタだ。◯◯◯をする妖怪だよ」

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私がそれに対して「へえ」と言った瞬間に目が覚めました。(◯◯◯はネタバレになるので伏せておきます)

こんなおかしな名前は目が覚めれば忘れているのが普通ですが、この時は聞いた直後に目が覚めて頭に残っていたので、「おもしろい」と思ってスマホにメモしておきました。

この舞台となったショッピングモールが日本だったのか、マレーシアだったのかははっきりしませんが、ショッピングモールで迷ってあちこち探し回るという経験は、間違いなくマレーシアでのものです。

KLのミッドバレーのメガモールや他のモールでも、目的の物を探したり、駐車場への出口を探し回ったりで、ヘトヘトになった経験は一度や二度ではありませんからね。

このタケカンパケタも、抱えていた男の子も、夢の中の雰囲気も、全く怖かったり邪悪な感じはなかったので、この「◯◯◯をする妖怪」を主人公に何か書いてみようとしてできたのがこの話です。

書く時には、ひょっとしたら何か以前に見たり聞いたりしたものが、突然思い出されてこの名前が夢に出て来たのかなと思ってネットで検索しましたが、Googleでの検索結果は全くのゼロでした。何も出ません。「◯◯◯をする妖怪」というのも見つかりませんでした。

錯覚だとはわかっていますが、今はネットの空間に存在しないものは実際にも存在しないような感覚を持ってしまいます。

それがこの小説を書いたことで、いま「タケカンパケタ」で検索するとヒットしますからとても不思議な感じがします。自分の手で妖怪をこの世に生み出してしまった!という感覚です。創作するというのは面白いものですね。

妖怪と言えば、マレーシアには妖怪や精霊の話がたくさんあるみたいですね。漫画家の水木しげるさんも、マレーシアの少数民族を取材して妖怪(精霊)の本を出しておられます。今回読んでみましたが、マレーシアの先住民の中には豊かな精霊信仰があるようです。

こんな経緯があるので、タケカンパケタはマレーシア生まれとは言わないまでも、何かマレーシアとのつながりを感じてきました。

それにしても何であんな夢を見たんだろう。あの赤ん坊が誰だったのかも謎です。

最近妖怪づいています


去年の暮れに初めて調布市の深大寺に行ったら、門前に「鬼太郎茶屋」というのがありました。水木さんは調布に長く住まれたようですね。調布市の名誉市民だそうです。


水木さんはよくニューギニアに行っていたそうで、その際にマレーシアにも立ち寄ることがあったと、90年代にマレーシアにいた頃に聞いた記憶があります。


水木さんとノンフィクション・ライターの大泉実成さんの「水木しげるの妖怪探検(文庫)」(単行本は「水木しげるの大冒険」という題)
94年にマレーシアのオラン・アスリ(先住少数民族)を訪ねて、精霊を探し求めた旅を綴ったもの。
現地の人との交流や精霊の話、水木さんが描いた30点の精霊の絵などが収められているが、実は旅を通して水木さん自身を描いた本だと思います。
水木さんの人柄や、妖怪のもとをたどっていくと精霊信仰につながる、といった話がとても興味深かったんですが、私はまだ日本が元気だったころの勢いが残っている文章もうれしかったです。

 

オウムアムアについて

オウムアムアのニュースをよく見たのは去年(2019)の始め頃だったかな? Yahoo!ニュースなんかにも時々出てたから、細長いオウムアムアの想像イラストとともに、ニュースを読んだ方も多いんじゃないかと思います。

でもニュースを読まなかった方のために、オウムアムアが何なのかとそれに対する世の中の反応を説明しておくと、だいたい下のようなものでした。

 二年前、二〇一七年の半ば頃、長さ数百メートルの細長い棒のような形の物体が太陽系に来ていた。
 この物体は猛スピードで太陽系にやって来た後、太陽のそばを通ってその引力で方向を変え、地球の近くを通ってから、太陽系の外に向かってまた飛び去って行った。つまりこの物体は太陽系に由来する天体ではなく、もっと遠くの宇宙からやってきたものなのだ。天文学者によると、太陽系外の物体の飛来が観測されたのはこれが人類史上初めてのことだという。そんな驚くべきものを最初に発見したハワイの天文学者たちは、この物体に「オウムアムア」という不思議な名前をつけた。ハワイの言葉で「初めての使者」とか「斥候」という意味らしい。
 この名前が拍車をかけたのか、世間ではこの物体が地球外の生命体が乗った宇宙船か探査機ではないか、という議論を活発に交わしている。一方、学者たちは初めて観測した太陽系外からの物体に驚きながらも、世の中の宇宙船説には惑わされずに冷静に分析を進めているそうだ。大半の天文学者は「これは小惑星か彗星に違いない。少し物理法則に合わない加速が観測されたが、きっと岩に付着していた氷が太陽の熱で蒸発して、そのガスが岩を加速させたんだろう」と推測していた。科学の世界では、奇妙な現象にもできるだけ既存の知識で説明をつけようとするのは普通のことで、今回の物体についてもそれで決着がつきそうだった。
 しかし、この物体を自然のものだと決めつけるのは適切ではない、と主張している科学者たちもわずかながらいる。

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 S教授もその中の一人だ。

これは前に紹介した短編集に入れてある、「オウムアムアむ」という小説の冒頭の部分です。もちろん、この小説は全てフィクションですが、冒頭の部分には説明のために上のような文章を入れました。

この部分だけは、フィクションではなくほぼ事実に近いことを書いたつもりです。「S教授もその中の一人だ」からが完全なフィクションです。

もともと宇宙の話は好きなので、このオウムアムアのニュースには結構興奮していました。特に、太陽から離れる時に加速をしたという話には、なんとかもっと詳しく調べられないのかなと思っていました。(「加速した」というのは、太陽から離れる時の減速の度合いが計算した値より緩やかだった、という意味だと思います)

そもそも、人類が初めて観測した太陽系外からの物体であって、細長い形をしていて、加速している、とこんなに珍しいことが重なることは考えにくいので、多くの人が「何かあるかもしれない」と考えたくなるのも無理もないことだと思います。

私もその一人ですが、この小説を書いている最中に特に奇妙に感じ始めたのが、加速の件もさることながら、「細長い」ということ。幅と長さの比は1対10ほどもあると推測されているそうです。

そんな細長いもの自然界で見たことあります?

もちろん、生物ならば、木やヘビやミミズなどいくらでもいますけれど、非生物では割と珍しいんじゃないかと思います。

自然界の細長い物って何があるだろうと、ずっと考えていて思いついたのは、断崖絶壁なんかで見る柱状節理の岩、顕微鏡で見た雪の結晶、鉱物の結晶、鍾乳石、つらら、それから岩山が水とか風で侵食されてその一部が柱状に残ったもの。

オウムアムアが自然のものだとすると、最後のものが一番それらしいけど、地球ではなかなか見る機会はありませんよね。しかも数百メートル級のものだとかなり珍しいんじゃないでしょうか。もちろん、地球の表面では宇宙空間とは違って風化が激しくて岩はだんだん崩れて砂や土になっていくから、なかなか見つからないという理由もありますが。

真実が何なのかは今になっては誰にもわかりませんが、初めて見つけた太陽系外からの物体が、地球ではあまり見慣れない形のものだった、しかも妙な加速をした、というのはやはりエキサイティングな話だと思います。

というわけで、「オウムアムアむ」という話は「この物体を自然のものだと決めつけるのは適切ではない」という立場のSFとして書きました。そのほうが世界が楽しくなるような気がしますしね。

実は上に書いた冒頭の文章のあとは、例によってとてもくだらないオヤジギャグに突入するのですが、そのあと立ち直ってちゃんとSF風になります。そのふざけた話も物語の中での役割を果たしているんですよ。

それから、終盤の方に書いたS教授のセリフも自分では気に入っています。一流の人が持つ矜持とはこういうものなんじゃないかと思って。