AIと身体の感覚

「手のひらの中の彼女」という話は、突然高性能になったスマホの音声アシスタントのAIと対話をする形で、人と人工知能の関係のあり方を自分なりに考えてみた近未来のSFです。

その小説を書いていた時に読んだのが、たまたま書店で見つけた黒川伊保子さんの書いた「アンドロイドレディのキスは甘いのか」という本。黒川さんは80年代から企業で人工知能の研究をしてきた方です。


アンドロイドレディのキスは甘いのか(河出書房新社)

書店で人工知能のことを書いた本を探すと、それを作るための技術的なことを書いた本か、ビジネスなどへの活用のことを書いた本が大半。

でも、この本はもちろん人工知能のことを書いた本ですが、技術的なことが中心ではなく、もっと人間と人工的に作った頭脳との本質的な違いや人工知能が決して越えられない一線を、身近な事例でふんわりと説明するもので、とても興味深く読むことができました。

具体的には、母であり人工知能の研究者であるご自身の経験から、人間に起こる本質的に重要で、決して人工物が真似できない体験を示して、人と人工頭脳の決定的な違いを説明しています。

そのキーワードの一つが、人間の身体感覚。赤ちゃんがお腹の中にいる時からすでに感じている、母親の体温や心臓の鼓動などや、生まれてからもお乳を飲む時の感覚や、肌で体温を感じたり、撫でられたりとかたくさんあります。

黒川さんはこの身体の感覚が人の心と密接に結びついていて、その心の働きは絶対に人工知能が真似できるものではないと言っています(と理解しました。間違ってたらごめんなさい)。

読んだ時はなるほどなあと思いながらも、自分は男なので母親ほど子供との濃厚な体験を持たないこともあって、いまいちピンとこない面もありました。でも、話を書いているうちに徐々にこのことを自分でも理解しはじめ、確かにそういう身体の感覚は、人間の心を考える時にとても重要だということがわかってきました。

そんな風に、この話はこの黒川さんの本にかなり影響されています。一方で、書いているうちに、なぜAIが人間と同じようになる必要があるのか?という当たり前のような疑問が湧いてきました。

べつに人間と人工知能は別のものなのは明らかなんだから、同じようになることを追求する必要はないじゃないか、ということです。人工知能は人工知能らしくしていて、もし変な言動をすれば「なんだまた馬鹿なこと言ってるな。所詮は機械だな」と人間は言っていればいいのだと思います。

でも人工知能が本当に高性能になり、人間と同レベルの会話ができ、それが社会にも影響を与えるような時代が来た時(少なくとも数十年は来そうにないと思うけど)、人間と人工知能は同じ価値観を共有する必要があるでしょう。そうでないと、人工知能は人間と衝突するか、予想外の言動をして困った事態になると思います。

そのためには、人工知能に「心」に相当する機能を擬似的に持たせることが必要になるのではないでしょうか。相互に心が共鳴しあうような経験をたくさん積んで、共通の価値を見出していくというのがこれまで人間と人間、あるいは人間と動物との間に起こっているのだと思います。

例えば、何千年も人間のパートナーとして生きて来た犬は、ある部分の価値観を人間と共有していると思います。犬が突然コミュニティーの中で人を襲い始めたら困りますからね。そういう犬は長い歴史の中で淘汰されて、性質がおとなしく人を大切にする個体が選別されてきたのでしょう。

そうして、人間と丁寧に接する犬は褒められ、可愛がられてそれが大切なことだという価値観を持ち始め、そういう行動をしがちな犬がたくさん子孫を増やして来たのだと思います。

見知らぬ者が外から来た時、家族やコミュニティーを守ろうとする犬も、コミュニティーの存在意義を理解して、人間と共通の価値観を持っているということではないでしょうか。人間も、犬のもとの狼も持っている、群れるという性質が価値観のベースを支えているのかもしれません。

こういう哺乳類の場合には、人間と同じような身体の感覚を持っているし、自分たちが繁殖していくという人間と同じ目的も本能的に持っているので、人間との間で心が響き合い、共通の価値観を育みやすいのではないかと思います。共通の祖先も爬虫類などより近いですしね。

そう考えた時、人間のパートナーとなるべき人工知能の場合はどうでしょうか。人間と犬のように哺乳類の体という共通の基盤を持っていないので、なかなか難しいでしょうね。繁殖していくという目的を持たせるのも、やはり躊躇されます。

しかし、正解のない千差万別の現実の問題に対応する時に、人間と共通の価値観を持たず、そういう際の人間の反応の仕方も理解していない人工知能が何か行動を起こすとすると、やはり問題が起こるでしょう。そこを将来どう克服していくのでしょうか。

そんなことも考えながら書いた小説です。まあ、人工知能がそういう高度なレベルに到達した時に考えれば良い話なのかもしれませんが。

なお、黒川伊保子さんは脳科学の観点から、男と女の違いについてもたくさん本を出したり発信したりされていますが、「アンドロイドレディのキスは甘いのか」でもエッセイ風にいくつか言及があります。

私はこの方の本を初めて読んだのですが、この男女の違いのところにもとても関心しました。みんなこういうことを認識していれば、世界(家庭)はもっと平和になるのにと。

 

 

 
スマホの音声アシスタントとの
対話を描くストーリー

 

 

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